マヨイガ

「……マジでいくの?」
「当たり前だろ」
「びびってんのか?」
 僕はゼミの仲間と古びた洋館に肝試しに来ていました。没落した華族の屋敷だったとかで、電気も何も通ってません。頼りは小さな懐中電灯だけ。
 たしかにホラーは好きだけど、それは小説の話。ビビリなので、実のところ映画ですら苦手です。夜中はトイレに行くのも嫌です。
「ほら、ね、はやくいこっ」
 庭の飛び石で立ち尽くしていると、女の子にまでせかされました。二人とも清楚で、ちょっと明治時代を思わせるようなワンピースを着ています。きっとこの家にあわせてシックな格好で来たのでしょう。
 何にしても、いかないわけにはいかない雰囲気。はぁ、やだなぁ。
 そんな風に思いながら、ドアを開けました。きっと、僕たち以外にも同じようなことを考える人はいるのでしょう。ノブには鎖が巻きつけてありましたが、南京錠が破壊されていて、出入りは可能です。
 ぎぃっときしむドアに一人おののきながら、みんなの後をついていきます。パッと映し出される絵や石像が不気味で仕方ありません。
 それでも、一通りの部屋を見て回って、結局何も起きませんでした。僕を入れて男三人が家を出ようとしたとき、違和感を覚えました。振り返ると、女の子二人がエントランスホールでじっとこちらを見ていました。
「ん、どうかしたか?」
 小林君がいぶかしがって数歩戻りました。彼女たちがにたぁっと不気味な笑みを浮かべました。
 そこで気がついてしまったのです。僕たちのゼミに、女の子はいません。良く考えると、二人の名前も知らないのです。
 隣の明智君の様子を伺うと、彼もどうやらそのことに思い当たったみたいで。じりじりと後ずさっていました。
 目が合うなり、いきなり明智君は駆け出しました。Uターンして。ドアが開け放たれます。僕も間髪入れずに。呆気に取られた小林君の顔が視界に映りましたが、正直、それどころではありませんでした。
 きっと彼もすぐに出てくるはず。そう言い聞かせて、小林君がエンジンを掛けているミニバンの助手席に乗り込みました。数秒後、車のドアが開いて勢い良く閉まりました。小林君が戻ったに違いありません。
 明智君も一気にアクセルを踏み込みました。ドンッ、と後ろから何かが体当たりして来たようでしたが、車の速度にはかなわなかったみたいです。僕たちはその敷地から逃げ出すことに成功したのです。


「良かった。無事に……」
 国道に出て、振り返って小林君に声をかけようとして、固まってしまいました。
 後ろの席には、先ほどの二人に加えて、見知らぬ三人目の女の子が……。 inserted by FC2 system